2008年読了リスト157-161

 性犯罪被害に遭ったら、やっぱり実名を公表することは私にはできない、と思ってしまう。きっと泣き寝入りをしてしまうのだろう。この人は実名を明かして、それで自分の体験を語っている。実名を明かすことで傷つくことも多いと思うのに、それでも。強い人だと思う。

性犯罪被害にあうということ

性犯罪被害にあうということ


 著者の名前も書名もすごく有名なこの本、実は読んだことがなかったのだった。読んでみたいとは思いつつ、読むのが怖いような、でも読まなきゃいけないような、という気持ちで揺れて、結局読まずにきたのだけれど、意を決して読むことに。案の定、読み進めるのにすごく時間がかかってしまった。感情に溺れない、冷静な、それでいて情感あふれる文章。同じく被爆したのに、傷が癒えて快復した重松と、あとになって重症の原爆症を発症する姪の矢須子。原爆にあうということは、結婚にもとてつもない障害だったのだな、と思う。祖父母も、母も、よくぞその広島から生きて帰ってきたものだと思う。63年前の悲劇は、忘れちゃいけない。「原爆を落としたから戦争は早く終わった」って言う人もいるけれど、私は断固それには反対したい。

黒い雨 (新潮文庫)

黒い雨 (新潮文庫)


 クォン・デという名前を知っているだろうか? 私ははじめて知った。ベトナムにも8年前に行ったことがあるのに、はじめて聞いた。ベトナム王族の正当な継承者で、長く日本に亡命していた人物だという。犬養毅頭山満という大物政治家とも通じ、ベトナムをフランスの支配下から独立させようと画策したものの、結局果たせなかった。そして、今ではベトナムでもその名は忘れられている。革命家としては何かが決定的に足りなかったのだろう。悲しい人だな、と思う。

ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー

ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー


 池澤夏樹、という書き手は、信頼できる文章を書く人のひとりだ。そして、この人の政治に対する考え方も、私は信頼している。真っ当なことを真っ当に書ける人が少ない中、きちんと筋道を立ててまっすぐな文章を書く人は貴重だと思う。北海道に生まれ、沖縄に住み、そして今はフランスから日本を見ている。この人ならではの視点で書いた文章で、はっと気づかされた点がいくつもあった。


 パ・マル、「悪くない」という名前のビストロのまわりで起きる、ちょっと不思議でミステリアスな出来事を、そこのシェフが淡々と読み解いていく。山形にもパ・マルというフレンチのお店があって、私はそのビストロが気に入っている。文章の中に出てくるお店の描写も、あんな感じなのかなあ、と思い描きながら読んだ。ほんのちょっとしたこともきちんと見ている三舟シェフ。大胆だけれど繊細な料理を作る人柄が、文章でも想像できる。おいしいブイヤベースを飲みたくなった。

ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)

ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)