読了

 『アルジャーノンに花束を』を髣髴とさせるような、若年性アルツハイマーにかかってしまった男性の話。まだ若いのに、どうして自分が、という苛立ちやこの先どうなるのだろうと不安と恐怖、そんなものが手に取るようにわかる。特に広告業界なんて、常に時代の流れを読まなくてはいけない会社にいた主人公にとっては青天の霹靂だっただろう。だが、この小説が怖いのは、これがいつ自分の話になるともしれないということだ。自分だったらどうなってしまうのか、考えるだに恐ろしい。

明日の記憶

明日の記憶

 ああ、だから森さんは『風に舞いあがるビニールシート』に収録されている「犬の散歩」を書いたんだな、書けたんだな、と思う。そんなことがあったとは。里親が見つかりました、よかったですねというハッピーエンドだけではなく、実際に保健所で処分されている犬たちの様子を取材した最後の章がすばらしい。いつか私も犬と猫を飼いたいと思っているけれど、里親を探している子をもらってこようとずっと前から考えている。たった1匹でも、命は救えるのだ。これからペットを飼おうと思っている人に、最後のハードルとして読んでほしい。
君と一緒に生きよう

君と一緒に生きよう

 世の中にはいろんな人がいるのだなあ、というごくごく当たり前のことを、こういう本を読むたびに思う。自分の周りにはいないような仕事をしている人だったり、経験をしている人だったり。雑誌の連載だっただけあってボリュームが少なく、もうちょっと掘り下げて読みたかったなあと思う。巻末の小説は、いつも柴崎さんの書く、淡々としたかわりばえのしない日常がリアリスティックでよかった。
ガールズファイル―27人のはたらく女の子たちの報告書

ガールズファイル―27人のはたらく女の子たちの報告書

 映画や小説のあらすじ紹介になっているのは否めない。具体例を挙げて説明しているのはいいけれど、だから自分はどうしたか、同じようなことが起こったときにどう対処していけばいいのかという指南のようなものが少ない印象を受けた。あらすじじゃなくて、そっちの方がメインだと思うのだけれど。
 
さびしさの授業 (よりみちパン!セ)

さびしさの授業 (よりみちパン!セ)

 ほんのすこしの悪意や感情のすれ違いで壊れてしまうかもしれない絆。とても仲がいい友達だったり、信頼しあっている恋人や夫婦でさえ、何が起こるかはわからない。いっときの感情で厭世的に結論を出してしまうこともあるだろうし、粘り強く方向を模索していくこともあるだろう。変に駆け引きなどせず、自分の感情に素直な弁慶が、見習うべきお手本のように見えてしまった。
アンハッピードッグズ

アンハッピードッグズ

 もう何度目かわからない再読。でもそのたびに、ぐぐっと引き込まれて、ストーリーは知っているのにどうしても読みやめることができない。いまや大学生でも持っているクレジットカードだが、私はカードが苦手だ。いつか使いすぎて払えなくなるような気がするからなのだが、たぶん私の中に、喬子になり得る要素が少なからずあるということなのだろう。借金で一家離散、という悲しい状況で巡り合ってしまったふたりの女性が、とても悲しい。きっとお互いの理解者になっただろうに。ラストは私はこれでよかったと思っている。
火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

このご時世、加害者の立場にしてもそれを隠すほうの立場にしても、どこの家庭にも起こり得ることなのだろう。自分さえこの状況から逃れられれば、息子さえ犯人の疑いが晴れれば、あとは他の人がどうなっても知らないという歪んだ感情。いくら肉親だとしても、こんな親子になってしまったら終わりだ、と思う。たとえ会うことがなくても、深いところで実は繋がっていた親子、同じ家に住みながらも愛情の伝わらないもどかしさを感じていた親、自分の息子をどう扱っていいかわからない不甲斐ない親。親子の縮図みたいな本だった。
赤い指 (講談社文庫)

赤い指 (講談社文庫)

 『赤い指』ではじめて東野圭吾を読んだという母、一気にはまってしまったようで、文庫本を4冊ほど買ってきていた。