読了本

 ちょうど子どもの移植について法改正がなされたところだったから、思わぬタイムリーさでこの本を読んだ。私自身は臓器移植提供カードを持っていて、自分の体で役立つところがあったら使ってほしい、と思っている。もちろんこれは私個人の考えであるから、いろんな考えの人がいていいと思う。ただ、今までの日本の法律では、救われる子どもも救われないことが多く、移植に携わる著者としてはもどかしさを感じることが多かったのだろうと容易に想像できる。今後日本の移植がどうなっていくのか、考えさせられる。

移植病棟24時

移植病棟24時

 あまりにも頭でっかちになりすぎて、いろいろなことを先読みしすぎてしまう周りの人たちよりも、ほうのように言われたことだけ、目の前のことだけをしっかりやっていく方が今は難しいのだろう。正しいことが強いことではなく、清濁併せ呑むところが社会の渡り方ともいえるのだろうけれど、結局ほうは自分のまっすぐさに救われたのだ。きっと加賀様もほうのそのまっすぐさに惹かれたのだろうな、と思う。せめて宇佐ともう一度一緒に暮らせれば幸せだったろうに。終わりかたには涙するけれど、あたたかい本だった。
孤宿の人 上

孤宿の人 上

孤宿の人 下

孤宿の人 下

 向こう側を見て、その上でこちら側に帰ってきた男と、向こう側にとどまった男。マリコとして生き、マリキータとしても生きる女。ファンタジックではあるけれど、十分にリアリスティックでもあって、池澤夏樹はさすがにこういう匙加減が上手いと思う。ありえない話ではないという現実感。ふわふわと漂っているだけではなくて、一方ではしっかり大地を踏みしめている感触がする。矛盾しているように聞こえるかもしれないけれど、池澤夏樹の文章は嘘がなく、あくまでもほんとうのこととして場面場面を見せてくれる感じがする。
マリコ/マリキータ (角川文庫)

マリコ/マリキータ (角川文庫)

 大学生にしては幼すぎないか? と斜めに見ている自分に気づいて、いやいや私だってこうだったんだろうな、と自分を省みるような部分も多かった。何もかも中途半端で、ひとりが好きなのにひとりぼっちは嫌で、仲良くしたいのにかまわれすぎるのも嫌で、モラトリアムならではのモヤモヤとした感情を書くのがとても上手いと思う。自分で自分を持て余してしまっている感じ。アンバランスさが妙にリアルで、なんだか自分のことを突きつけられているようで、なんともいえない複雑な感情を覚えた。
長い終わりが始まる

長い終わりが始まる

 今まで何作か読んだことのある小説とは、だいぶ受ける印象が違ってはじめは戸惑った。小説は静かな感じなのに、エッセイはわりと年相応というか、はっちゃけているというか。そのギャップが私にはおもしろかった。こんなに赤裸々にしてしまっていいんだろうか、とこっちが心配になってしまうくらい。いたって普通の人なんだな、と思う。結婚したあとのエッセイも読んでみたいな。
CHICAライフ

CHICAライフ

 『あしながおじさん』のように、ただひたすら手紙だけで成り立つ1冊。でも、書簡形式でもやはり妄想は炸裂していて、根本は今までの作品となんら変わらないのがおもしろい。主人公の守田はみんなにいじられながらも愛されているというのがよくわかる。愛すべき馬鹿、というか。守田からの手紙のみで構成されているので、それぞれどういった返事をもらっているのかを想像しながら読むのも、また楽しい。
恋文の技術

恋文の技術