読了本

 こんなにうまく行くわけないよ、ご都合主義だよ、と言われてしまうのもわかるけれど、それでもなお「いい作品」と言いたい。私も映画が好きで、地元の映画館の年間パスを持っているけれど、いわゆる名画は観ていないものが多い。ゴウちゃんとローズ・バッドのやりとりを読むと、いろんな映画に対して不勉強なのがもどかしくなる。映画が好きな人にとってはたまらない作品だ。素敵な展開で、最後は涙がこぼれてしまった。もっといろんな人に読んでほしい本。原田兄妹、好きだなあ。

キネマの神様

キネマの神様

 『雨の塔』がちょっと期待はずれだったので遠のいていたけれど、久しぶりに見つけて手にとってみたら、やっぱり宮木さんは上手いと思う。戦争を背景とした、自分の思い通りには生きられなかった時代の女性たち。人のつながりがまた時代を感じさせる。情念、恋情、だけどそれだけじゃない。女性は、やっぱり強い生き物だ。
白蝶花(はくちょうばな)

白蝶花(はくちょうばな)

 筒井さんの食べ物に対する執着は何度読んでも根深い。それでも、以前にも読んだことのあるエピソードが繰り返し出てくるせいで、『舌の記憶』の焼き直しという気も。おいしいものを、好きな人と一緒に食べて楽しめるというのは、もうそれだけで小さな奇跡を起こしているようなものなのだと思う。そして、その奇跡の記憶は、きっと消えない。
おいしい庭

おいしい庭

 帯には「私小説」とあったが、私にはノンフィクションとしてしか読めなかった。わずか10歳で死に直面している茂樹くんからの、和さんへの祈りがすばらしい。短い生を一生懸命生き、天に召されてしまったあとの「その早すぎる死は、普通の人が一生かかって得る優しさを、茂樹くんはたったの10歳で得てしまったから」という一文がすごく泣けた。本当に、奇跡の3ヶ月。こんな出会いがあるから、日々やっていけるのだと無謀にも思う。
優しい子よ

優しい子よ

 一時音楽の道に進もうと考えていた私にとっては、懐かしくもあり、未知の世界でもある1冊だった。全編を通してチェロの厚みのある音が流れている。そうそう、合奏と協奏は似て非なるもの。音楽を専門にやらなかったことを、今でこそ肯定できるようになったけれど、それでも選ばなかった道のことを考える。心の奥に見えないようにしまっていた傷が、ひりひりうずくような小説。
船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏