読了

 キップをなくして改札口の外に出られなくなってしまったイタル。思いがけずイタルと私は同い年の設定で、ちょっと親近感を持てた。駅の子になって生徒たちの登下校を助け、それぞれに役割を果たしていく駅の子どもたち。東京駅のあのへんに子どもたちの住んでいる部屋があるのかな、こっちのほうかな、と想像するのも楽しい。あたたかく、心がほんのり明るくなるファンタジー。秀逸です。

キップをなくして

キップをなくして

 再読。何回読んでも、この引き込まれる感じには驚いてしまう。あのリコール隠しが起こった当時、私はまさにあの会社の車に乗っていて、会社の体質におそろしく失望したのだった。もちろんこの小説はフィクションではあるけれど、どこまでが現実でどこからがフィクションなのかわからないくらい。人間の嫌な面もたくさんあるけれど、結局良識に屈服する、その最後がよかった。未読ならぜひおすすめ。
空飛ぶタイヤ

空飛ぶタイヤ

 シリーズとはいえ、ミステリー色はまったくないし、医療の現場そのものもほとんど出てこない、ひたすら会議ばっかりしている印象。こんなに読み進めるのに時間がかかるとは思わなかったし、疲れた。きっと彦根の言いたいことが、イコール著者の主張なのだろう。なんか、もう『バチスタ』の頃みたいに、早く先を!という感じではなくなってきてしまったなあ。
イノセント・ゲリラの祝祭

イノセント・ゲリラの祝祭

 434ページという長編、なのに長さを感じずに読みきれたのはさすが池澤夏樹の力量か。ベトナム戦争末期に、沖縄の嘉手納基地とその周辺で、小さな小さなスパイ組織がひっそりと生息していた。ある者は米軍の情報を盗み、ある者はその情報を手渡し、北ベトナムに伝え、またある者は脱走兵の手助けをする…。圧倒的な軍事力を誇ったアメリカ軍に、人々の良心がすこしずつ対抗していく。自分の信念がどこまでのものか試されるような、ささやかだけれど、確かに国家に対する反逆。沖縄に暮らした著者だからこそ、それでもやっと書けたであろう1冊だ。
カデナ

カデナ

 記憶力がすばらしい。自分がとっくの昔に忘れていることでも、伊集院さんはずっと覚えている人だ。そして、職業柄さすがに言葉の選び方が上手い。私は家で読んでいたからよかったけれど、これを外で読むのはかなり危険だ。何回も吹き出しながら読むこと必至。オムライスの話、プロポーズの話、それと近藤くんの話がよかった。ラジオ、聴いてみたいなあ。
のはなしに

のはなしに

 きれいなんだけど、以前より小さくまとまってしまったなあという印象。痛々しくてたまらないのに先を読みたい、という渇望が、前の方が強かった気がする。「蝉丸」もよかったけれど、「隅田川」の方が好み。「蝉丸」の博雅は、蝉丸のことをとても大切に思う一方であまりにも傍若無人で、まわりにいてほしくない人。もっと感情をぶつけたような作品を読みたい。
悲歌  エレジー

悲歌 エレジー

 石田千の『平日』を読んでいたのだけれど、もうどうにも読みすすめられなくて挫折。石田千の本は、言葉が平易なわりに読むのにものすごく時間がかかるのだけれど、もう今回はどうにもできなかった。あんまり相性がよくないってことなのかなあ。