読了

 長くなるのでたたみます。
 考えさせられる話だった。自分の生き方についていろいろ思うところは私もあるのだけれど、果たしてほんとうにそれが私だけでなく周りの人にとっても一番いいことなのだろうか、と考えざるを得ない。自分が死ぬということが、自己満足で終わってはいけないのかもしれない。私だったらどうするか、ということを想像しながら読んだ。

無言の旅人

無言の旅人

 なんとも後味の悪い作品。不気味で、指先がぞわぞわする感じ。一見普通の家族なのに、マナの感じ方を読んでしまうと、どうしてもシズ姉も普通じゃない。みんなどこかしらずれていて、おかしい。らいほうさんの場所が実際に何を指しているのかはわからないけれど、そこらへんにありそう。自分の中にも、あるかもしれない。
らいほうさんの場所

らいほうさんの場所

 勢いだけで押し切っていて、若いなあと思う。どうも読んでいて気持ちのいい内容ではなかったけれど、読みやめることもできなかったというのがこの本の魅力なのだろう。もろさと危うさという感じ。
ガーデン (創元推理文庫)

ガーデン (創元推理文庫)

 立居振る舞いや発言、その見た目から派手な人に見えてしまうけれど、実は人一倍臆病で慎重な人だったんだ、とよくわかる。大胆で率直でずけずけ物を言っても嫌味にならないなんて、米原さんはほんとうに貴重な人だった。日本に対する愛と批判にあふれたエッセイも、小説も、いつか書かれたであろう童話も、どれも読んでみたかった。そして、できるなら生前にもっと本を読んでみたかった。惜しい人がいなくなったのだなと思う。
米原万里を語る

米原万里を語る

 兄弟で本を書けるのか、ということに興味があって手に取った本だけれど、なんとも後味の悪い作品。動物好き、犬好きとしては犬が蹴り上げられる場面など、読みたくもない。表紙や文章の書き出しなんかはほのぼのとした世界を思わせるけれど、内容はその反対。心の闇や屈折など、中学生ならではのモヤモヤ感なのかもしれないけれど、それにしても動物虐待は勘弁してほしい。
犬はいつも足元にいて

犬はいつも足元にいて

 10年ばかり、とぎれとぎれながらも教会に通ったことがあり、ごく普通の人よりは多少聖書についての知識がある私にとっても、ちょっと難しかったけれど、おもしろかった。古代ヘブライ語に時制がなかったことや子音がないことなどは、今回はじめて知ったことだ。私たちがふだん目にする聖書は、あくまでも日本語に訳された聖書であって、もともとの言葉で読んでいるわけではないのだという認識は、海外の小説を読むときと同じくらい必要なのだと思う。ユダヤ教キリスト教の違いなどもおもしろかった。
ぼくたちが聖書について知りたかったこと

ぼくたちが聖書について知りたかったこと

 夢をめぐる短編集。いつもながら心地のいい関西弁のリズムで、淡々と物語は流れていく。いつもなら淡々としつつもしっかり日常を歩んでいる柴崎さんの小説の登場人物が、今回に限ってはみんなどこか浮世離れしてふわふわしていた。どこか地に足のつかないような、地上10センチくらいを歩いているような。どうも個々の登場人物に際立った違いが感じられなくて、どれも似たような人に感じられたのがすこし残念。
ドリーマーズ

ドリーマーズ

 うーん、私にはそれほど上手いとかよかったとか思えなかったなあ。終わり方はよかったと思うが、それまでのプロセスがどうもなじめない。ただ男の半生をなぞって、それで?という感じ。まったく泣けもしなかった。変な感想だけど、人の感じ方っていろいろなのね、というだけ。
巡礼

巡礼

 長島さんの写真をちゃんと見たことは、実はまだない。でも、これを読んだら、どうしてこの人の写真がいいと言われるのかがわかるような気がする。誰の記憶も違っているはずなのに、それでも「わかる、この感じ」と思わせてしまう文章。まるで目の前でその光景が繰り広げられているような描写が、すごくよかった。みんなそれぞれに背中の記憶はあって、きっとそれがあるから生きていけるのかもしれないなと思う。
背中の記憶

背中の記憶

 前作を読んだときに、「エイリアン」の著者がどうして「地球人」の夫の目線で書くのだろう、とひどく違和感があったのだけれど、今回はそれほどおかしいとも思わなかった。著者にとっては、自分がこうすると夫がこう感じたりするのだという再確認の手法になったのだろうなと想像できる。人には多かれ少なかれこういった性質があって、ただそれが強く出るか自分でコントロールできる範囲内かというだけの違いなのかもしれないなあと思う。自分のできることとできないことを客観的に把握して判断し、自分なりに工夫をしていく姿勢が好ましかった。
エイリアンの地球ライフ―おとなの高機能自閉症/アスペルガー症候群

エイリアンの地球ライフ―おとなの高機能自閉症/アスペルガー症候群

 まったく、米原万里というひとはなんという類稀なる作家だったのだろう! 最初から最後まで、ページをめくる手が止まらなかった。圧倒的なリアリティ。まるで自分が一緒に謎解きの場にいるかのよう。どんなに暗くて先の見えない時代でも、その反逆精神で自ら道を拓いてきたオリガ・モリソヴナが素晴らしい。どうしてもっと早く読んでおかなかったのかが悔やまれる。手元に置いて、何回でもこの世界に浸りたい。
オリガ・モリソヴナの反語法

オリガ・モリソヴナの反語法