読了

 装丁の綺麗さに手に取った本。夢と現の境界の淡さや、自分の足元の頼りなさをくっきりと映し出している短編集。小説というより、散文という言葉が似合いそうな感じがする。どこまでも澄み切って、透明な世界。好き嫌いが分かれるかもしれないけれど、私は好きだった。表題作と「空港」、「野ばら」が好き。他の本も読んでみたい。

裁縫師

裁縫師

 これは女の自意識の問題だ。イタイ、哀れな、それでも自意識を捨てられない、開き直れない女性。うーん、読み進めるのがつらいところもたくさんあって、必ずしも読後感はよくない。自分の嫌な面をめいっぱい拡大して見せられているような気分になるからなのだろうか。
静かにしなさい、でないと

静かにしなさい、でないと

 下町深川を舞台とした、橋をめぐる短編集。東京で働いていたことがあるとはいえ、住んだことはないし、東京の東部についてもあまりよく知らない。けれど、それでも頭の中にその光景が浮かんでくるような、そんな表現が多かった。大きい事件が起こるわけでもなく、ごく普通の日常の中にほんのささやかな波が起こるだけなのだけれど、その波がちょっとずつ主人公も周りも変えていく様子がよかった。取るに足らないことだけれど、さりげない出来事がリアルで、深川にも行ってみたいなと思う。
いつかのきみへ、いつかのぼくへ 橋をめぐる

いつかのきみへ、いつかのぼくへ 橋をめぐる