読了本

 2010年の読了本。
 はじめは高校生の設定なのかと思ったら中学生。努力型の早弥と、天才型の実良。そして良くも悪くも注目を集めてしまう春。弓道ではないけれど、高校時代に武道の部活に所属していた私にとって、競技の細かいところはわからないものの、なんだか親近感を持てた。堂々たる先輩の由佳、凛とした坂口先生や、わからないなりにサポートしようとする澤田先生、みんな魅力的ですごくよかった。ぜひ続編を期待したい。

たまごを持つように

たまごを持つように

 文章が本業の人ではないからなのか、スピードが自分と合わなかったからなのか、詠み終えるのにかなり時間がかかってしまったけれど、ほんとうにおもしろかった。引き込まれるというのはこういうこと。自分とまったく違う、知らない世界でこんなにがんばっている人がいるのだということ。ただ、「そこに山があるから」という理由だけで山に登れるということは、山を愛して山にも愛されている人なのだろう。手と足の指をなくしても、いまだ情熱の衰えない山野井さん、これからもいろんな山に登ってほしい。
垂直の記憶―岩と雪の7章

垂直の記憶―岩と雪の7章

 大好きな堺雅人さんの文章を、ちょっとずつ朗読してもらっているような気分になりながら読んだ。演じることだけではなくて、文章も非常に自然体で、とても好感が持てる。読む本の幅広さ、考えていることの奥深さ、すこし顔を出す自虐っぷりなんかも見られて嬉しい。「品格」についての文章を書く堺さんこそ、品があるよーと思ったのは私だけではあるまい。
文・堺雅人

文・堺雅人

 正直、乃南さんにしてはがっかりだなーという印象。主人公の耕平があまりにもやる気がなさすぎるし、不幸続きで読み進めるのがつらくなる。最後だけやたらと明るく前向きになるのも、なんというか唐突すぎて、私にはしっくりこなかった。いくらなんでも、飲酒運転までさせなくてもよかったんではないかと。
ニサッタ、ニサッタ

ニサッタ、ニサッタ

 どんなに感情が波立っていても、堀江さんの文章を読むとすっと落ち着く。鎮静剤のような効果が、私にとってはある。製氷皿の話(私は見たことはないけれど)、ハイブリッド加湿のおばさんの話、転ぶ話、どれも堀江さんらしくていいなあと思う。ニュートラルな立ち位置に戻りたいときに開きたくなる本だと思う。気づかなければ通り過ぎてしまう日常のささやかなできごとを、こんなに美しく文章にできるのは、やっぱり堀江さんならではだ。
正弦曲線

正弦曲線

 ベトナム戦争が終わってから生まれた私は、当時のことを何も知らない。旅行でホー・チ・ミンを訪れた際に見学した戦争の資料館のようなところで、あまりにむごい現実を目にして絶句したことを今でも覚えている。壮絶な戦いの中で、それでも気丈に自分の役割を果たそうとしたトゥイー。戦争時特有の、情報の真実や軍の正義を疑うところはまったく見られないけれど、それを差し引いても当時のすさまじさを見せ付けられる。それでも希望を失おうとしないトゥイーの強さが、とても際立つ。
トゥイーの日記

トゥイーの日記

 ハレの日のごはんではなく、あくまでもケのごはん、というのが嬉しい。料理研究家とはいっても、サッポロ一番を食べたり、出前のお寿司を食べたりもするのねー、なんて、自分の食生活を高い高い棚に上げて、ちょっとほっとしたりもする。後半にお弁当がひんぱんに出てくるのも、ずっと家にいるはずの人なのに、と思うとちょっとおもしろかった。こんなふうに、なんでもないけれど愛情のこもったごはんを作れる人になりたいなあ。装丁も、上巻と相変わらずいいです。
チクタク食卓〈下〉

チクタク食卓〈下〉

 本題とは関係ないけれど、まず、木村さんの字が思ったより上手じゃなかったのにびっくりした。読みづらい、と思ってしまったのはしかたのないことなのかなあ。手紙を書く上での知識なんかはごくごく一般的なもので、目新しいものも特別ないけれど、やっぱりお店の情報がおもしろかった。銀座伊東屋で何時間もぐるぐるお店の中を探検したい! そして、そのあと月光荘に行って、お店で買った便箋に、喫茶室ですぐ手紙を書いて、そのまま投函したい。誰かに手紙を書きたいなあ。
手紙手帖―あの人は、どんな手紙をくれるかしら

手紙手帖―あの人は、どんな手紙をくれるかしら

 以下は2009年の読了分。ひっじょーに長くなるので、たたみます。
 なんとなく会話がかみ合わない、だけど、だからこそおもしろいこのふたり。三谷さんがまじめにボケているところに容赦なくびしびし突っ込みを入れる清水さん。肩が凝らずに楽しく読める。
いらつく二人

いらつく二人

 都市銀行でエリート行員として働いていたものの、現在は地方銀行の庶務行員として働く主人公。そのもとにはさまざまな難題が持ち込まれ、そして都銀を追いやられる原因となった人物たちと対峙することになる…。さすがに銀行出身の著者だけあって、内部の表現などはとても詳しい。銀行で働いたことのある人なら、容易に情景が浮かぶだろう。舞台が東横線沿線ということもあり、私には懐かしくもおもしろく読めた。『空飛ぶタイヤ』といい、読ませる作家さんだなと思う。
仇敵

仇敵

 かみさまは、「神様」ではなく「紙様」。紙ものに興味がある人だったらとても楽しめるだろう。名刺にしろ洋服のブランドタグにしろ包装紙にしろ、丁寧に作られたものには当然心がこもっていて、ぽいっと捨てるのにははばかられる、そんな紙ものを集めた1冊。活版印刷や切手のことにも触れられていて、ページをめくるのが楽しい。こんな本を見せられたら、ますます紙ものが好きになってしまうではないか! 手元に置いて何回も読み返したい本。
かみさま

かみさま

 なんというか、自分も女なのだけれど、女性は怖いなあと思わずにはいられない。表面上は仲良くしていても裏で何を考えているのかわからない、というのは私にだって経験がある。それを、こんなにおどろおどろしく書けるなんて。うっかり手で触れてしまおうものなら、こっちのほうがやられそうな、ぴりぴりした雰囲気。内に秘めた情念や執着、嫉妬が表に出てくるのが、自分と相手の生死に関わるときだけというのが、また恐ろしい。強烈だった。 初の有川作品。最初の設定がいかにもイマドキの若者な感じで、どう展開していくのかと思えば母の病気。そこまで重症なのに気づかないくらい、男性陣は家の中のことに注意を払っていなかったのだろう。お姉さんの男前っぷりがとてもいいアクセントになっていて、すこしずつ誠治や父が変わっていくのが読み取れて、一気読み。エンディングは予定調和ではあるけれど、それもすんなり受け入れられる。おもしろかった。
フリーター、家を買う。

フリーター、家を買う。

  『みきわめ検定』から読むつもりが、はじめに手に取ったのがこちらだった。夫婦をめぐる、なんてことない日常の話。家族はそれぞれに違うけれど、夫婦だってやっぱりそれぞれに違う。自分がこうするからといって、他の人にまで応用が効くわけじゃない、と、そんなことを考えながら読んだ。第三者の目で、一定の距離を置きながら書いているような文章がとてもよかった。
超短編を含む短編集 枝付き干し葡萄とワイングラス

超短編を含む短編集 枝付き干し葡萄とワイングラス

 反発するところもなくはないのだけれど、すごくじんわり沁み入る言葉もいくつかあって、それだけでもこの本を読んだ甲斐はあると思った。著者本人とは比べられないほど凡々の人生を送ってきていても、やっぱりぶつかる壁は似たようなものなのだなとも思う。自分にとっての真実は、結局自分で見つけて答えを出していくほかはないのだけれど、ほんの少し先を照らしてガイドになってくれるかもしれないと思える本。それが、たとえ自分の思うものとは別の方向を向いていても、それはそれで受け入れられそうな気がする。
Q人生って?

Q人生って?

 読んではみたものの、これといって共感できる部分も見当たらず、するっと読み終わってしまった感じ。人にとっての読書術は人それぞれなので、なにも見習う必要もないわけだが。
多読術 (ちくまプリマー新書)

多読術 (ちくまプリマー新書)

 あいかわらずのんびりやさんのあおばさん。仕事も変わらず、イラストの勉強をして、それなのに緑川さんに変にあたられたり、艶子さんと会うことになりそうだったり。大きい事件ではないけれど、淡々と暮らす中にも確実にちょっとの変化はあって、それをあおばさんと一緒に体験できるのがいい。もし、考えが変わったら「今変わった」と自覚できそうなほどのスピードだけど、あおばさんらしくてそれがいい。続きが楽しみ。
きのうと同じに見えるけど

きのうと同じに見えるけど

 自分ひとりのためだけに書かれた、ひっそりした物語のような気がしてしまう。本を開けば、そこにはいつでもこうちゃんがいて、私だけのものでいてくれるような。難しい言葉を使っているわけでも、大きいことを言っているわけでもないのに、どうしてこんなに胸に響くんだろう。本棚のすみに、忍ばせておきたい本。須賀敦子酒井駒子のコラボなんて、何かのご褒美みたいだ。
こうちゃん

こうちゃん

 え、これでいいの? という終わり方だった。なんだか前2作よりおもしろくない…。誰にも感情移入できないし、登場人物の中でかっこいいのは菊さんだけ。それ以外があまりにもふがいない。何を言いたいのか、何を書きたかったのか、いまいち伝わってこなかったなあ。序盤の流れがよかっただけに、後半リュウが上京してからグダグダになるのがなんとももったいない。料理の描写は、相変わらず素敵。
ファミリーツリー

ファミリーツリー

 なーんにも考えずに本を読みたいという人にはいいかもしれない。ちょっと私にはテイストが軽すぎて、あまり合わなかった。おもしろかったけれど、それだけ。
生きていてもいいかしら日記

生きていてもいいかしら日記

 あばたもえくぼ、の状態からふっと目がさめる瞬間を、実にうまく切り取っている。特に、表題作の「みきわめ検定」はほんとうに上手い。きっと、どれかに既視感を覚えるだろうと思う。これと対になっている『枝付き干し葡萄とワイングラス』の方が好みだけれど、それはきっと私が結婚したからなのだろうなあと思う。『るり姉』の断片が見られておもしろかった。
超短編を含む短編集 みきわめ検定

超短編を含む短編集 みきわめ検定