読了

 どうして音楽なのに『船に乗れ!』なのか、と思いつづけながらたどり着いた3巻で明かされる意味は、とても重いものだった。一時、ひどい嵐にさらされて、それがおさまったとしても、船が揺れ続けていることを、私は忘れていないだろうか。著者の藤谷さん自身がチェロをやっていたというし、半自叙伝のような小説かもしれないが、ほんとうによかった。安易なハッピーエンドではないのも、またいい。「私が、まちがえて死なせてしまった私のヴァイオリンの、お葬式です」という南の言葉が、とても泣けた。

船に乗れ! (3)

船に乗れ! (3)

 なんともつかみどころのない、ふわふわと地上30センチを漂っているような話だった。主人公の由実が逃げてきた、タバサのいる町は一見穏やかで誰でも受け入れてくれるようなところに見えるけれど、その実ブラックホールのような穴がぽっかりとどこかに開いているような印象を受ける。普通の生活からすべり落ちる、というか。自発的に行きたいと思って行ける場所ではなく、さまよっていた人が最後にたどり着く場所のような感じ。あの町では、あんなふうに命がつながれていくのかと思うとそれもおそろしい。どこまでも軽やかに人を裏切り続ける小説。
薬屋のタバサ

薬屋のタバサ

 ほんとうに短い、ページにすれば2ページから5ページくらいで終わってしまうちいさな話がたくさんつまっているのだけれど、不思議にほのぼのしてしまうのは、女性が新しい一歩を踏み出す瞬間がたくさん詰まっているからなのだと思う。肩肘張らず、自然体で。
ギフト

ギフト

 ギャチュンカンに登ったあと、しばらく抜け殻になっていたという山野井さん。もともと少なかった指を、ギャチュンカンでさらに失うことになった妙子さん。それでも、このおふたりは山に登る。ドキュメンタリーだけあって、妙な感情をさしはさむこともなく、淡々と書いてある文章が合っていた。それにしても、このおふたりの結びつきといったら相当なもの。お互いがお互いを信頼しきっていないと、こんな命がけの山登りには挑めない。放送を見たかったなあ。
白夜の大岩壁に挑む―クライマー山野井夫妻

白夜の大岩壁に挑む―クライマー山野井夫妻

 見た目はとてもかわいいけれど、おとなのための絵本。子どもを必要以上に無邪気な存在とせずに、あるがままを描いているのがとても好感が持てる。子どもは往々にして大人より小さい存在だと思われているけれど、どう表現するかという術を知らないだけで、中身はまったく変わらないんじゃないかと思ってしまう。酒井さんも、その心もとない感じをまだ覚えているに違いない、と思う。
金曜日の砂糖ちゃん (Luna Park Books)

金曜日の砂糖ちゃん (Luna Park Books)

 花咲舞のキャラが立っていておもしろい。ほんとうに花咲のような人がいたら、銀行内ではかなり扱いに困りそうなものだけれど、それをうまくカバーしているのは花形テラーだったという設定。多かれ少なかれ銀行はどこもすこしずつ似通っていて、以前私が働いていた銀行だったらこの人物はあの人だな、こっちの人はこの人だろうなあといろいろ想像しながら読んだ。
不祥事

不祥事