読了

 なかなか図書館で見つけられなかったのだけれど、たまたまあったので即借り。『山月記』と『走れメロス』、『桜の森の満開の下』がよかった。メロスの桃色ブリーフ! 原作がこんなに違うものになるとは、原作の作者だって想像すらしていないに違いない。原作の知識があればもっと楽しめたのかもしれないけれど、これだけ読んでもオモチロイようにできている。森見ワールド、最高です。

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇

 自分自身の暗黒の小学生時代を思い出して、ちょっと嫌になった…というのは置いておいて、その暗黒を思い出させるような文章なのだから、やはりうまいなあと思う。傍から見たら小学生なんて何の悩みもなくてのほほんとしているように見えるかもしれないけれど、そんなにお気楽でもないし、子どもらしくもない。女の世界は歳に関わらず存在するし、それは小学生でも同じこと。胸がぞわぞわするような、ちょっと不安な本だった。
夜の朝顔

夜の朝顔

 一見、それぞれ単独の出来事や事件として片付けられそうなことが、ひとつの点に向かって集約していくさまは読んでいて見事。銀行という職場にすこしでもなじみのある人だったら、わかるわかる、とうなずきたくなるところがたくさんあると思う。都銀の中の出世競争は、きっと傍から想像しているよりももっとえげつなかったりするのだろうなあ。どれを読んでもはずれのない、信頼している作家さんのひとり。
シャイロックの子供たち

シャイロックの子供たち

 いったん背負ってしまった十字架は、どんなことをしても下ろせない。もし軽くなることはあったとしても、消えてなくなるわけではないし、何より記憶は消せない。それでも、人間は忘れていく生き物だし、忘れないと生きていけない。そんな矛盾と葛藤を抱えながら生きていかなければならない人たち。感情をむき出しにしない、淡々とした筆致だからこそ、十字架を背負ってしまった者や親の苦しみが際立って、読んでいてつらいし重い。それでも、いろんな人に読んでほしいと思う。十字架とナイフ、この対比は忘れないと思う。
十字架 (100周年書き下ろし)

十字架 (100周年書き下ろし)

 あいかわらずのへもへもっぷりの本上さん。テレビで見るご本人は、周りの人が馬鹿騒ぎをしていてもただひょうひょうと漂っているように見受けられるけれど、やっぱり今回の文章もそんな感じ。自分のことをよくわかっていて、それに素直に生きている人だなあと思う。たぶん、この人は、普通に暮らすということの意味をわかっている女優さん。ふうたろうちゃんがどんなふうに育つのか、また続編を期待。
はじめての麦わら帽子

はじめての麦わら帽子

 以前読んだ『ししゃも』よりはおもしろかった。仕事柄、狂犬病のワクチンを扱う方の立場にいるので知識は多少あるけれど、こんなふうにして蔓延していったら怖いなあと思う。一般的には撲滅されたと言われている狂犬病だけれど、登録をしていない、ワクチンをうっていない犬がこんなにいるのだとしたら、それも恐ろしい。それに比べて、登場人物をめぐるそれぞれの事情の方は、どうも魅力を感じられなかったりして、そのアンバランスさが残念。
再発 (小学館文庫)

再発 (小学館文庫)

 前作の『すばらしい新世界』をやっと読んだので、こちらも再読。あの幸せな家族が、思わぬ出来事からばらばらになり、それをすこしずつ時間をかけて再生していくという主題。この家族のもっともすばらしい点は、何かが起きたときに、一時は嵐が起きても、それを放り出したりすることなく、きちんと自分で考えて向き合い、真摯な結論を出そうとすること、そして、子どもを子ども扱いしないで一人の人間だと認めていることだと思う。ベタベタしすぎる家族でもなく、お互いを尊重しつつも自立していて、こんな家族が理想。今後の指針となる1冊。

光の指で触れよ

光の指で触れよ